日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2026年7月15日号

2026年7月15日

〈本号の主な内容〉

■このひと
 あぐラボの現状と今後の展開
 (一社)AgVenture Lab(あぐラボ)
 代表理事理事長CEO
 土田智子 氏

■かお
 農林中央金庫 常務執行役員・執行役員に就任した5氏
 ・山田幸弘 氏(常務執行役員)
 ・千代康治 氏(執行役員)
 ・宮路出 氏(執行役員)
 ・小笠原亜紀 氏(執行役員)
 ・平良仁 氏(執行役員)

■JA全農 令和8年度事業のポイント
 麦類農産部 石村裕章 部長


このひと

 

あぐラボの現状と今後の展開

 

 

(一社)AgVenture Lab(あぐラボ)
代表理事理事長CEO
土田智子 氏

 

 JAグループ全国機関8団体が共同で設立した(一社)AgVentureLab(以下、あぐラボ)の新しい代表理事理事長に、土田智子氏(農林中金常務執行役員)がこの3月就任した。あぐラボは食・農、地域のくらしの課題解決のオープンイノベーション拠点として、7年にわたり事業を拡大している。あぐラボのこれからの展開を、土田理事長に聞いた。

 

迅速化した対応で
結節点としての役割を果たす

理事長としての抱負と新しい運営体制になった背景を。

 あぐラボは、新たなアイデアを持つスタートアップとJAグループを結びつける結節点だ。新しい組織と豊富なアセットを有するJAグループが出会い、大きなシナジーを生む場として、重要な役割を持つ。JAグループの一員として日本の農林水産業の振興や食料安全保障の確保に向け、理事長として貢献していきたい。

 今回の体制変更は、事業拡大に伴う意思決定の迅速化と経営の透明性向上を目的としたものだ。

 当初はJAグループ職員で運営していた組織だったが、スタートアップ実装支援の過程で、JAグループ外から多様なスタッフの参画を得るようになった。事業も拡大し、以前のように職員が集まって意思統一を図ることが難しくなってきた。

 役割を決め、チームリーダーに責任を割り振るようになれば、よりスピーディーに必要な情報や動きを把握することができるのではないかと考え執行役員体制の構築に至った。

 この体制では、役員同士で情報共有を行いつつ、自分で担当する分野はPDCAを回し、次のチャレンジに活かしてほしいと考えている。

 

「ラボ」として最新技術を次の段階へ

現在の取組みと評価について。

 スタートアップ支援プログラム「JAアクセラレーター」では、各地で実証実験をサポートしている。今年度の開催で8回目となり、過去最多の274社にご応募いただいた。アクセラレーターとして伴走するのは6社に決定したが、その他の6社にも「イノベーティブ賞」を授賞した。イノベーティブ賞を受賞したスタートアップとは緩やかな形で関わり、次回のアクセラレーターへの応募や生産の現場での実装につなげていただきたいと考えている。

 併せて、1年以内に起業を目指す学生・社会人や起業間もないスタートアップ企業等を対象にした起業家育成プログラム「GROW&BLOOM」にも取組んでいるところだ。

 官公庁・地方自治体等によるスタートアップ支援施策の事務局へのサポートや受託業務も行っており、現場実装につながる実証を支援している。

 JAグループ職員や関係企業等の人材開発では、各団体・企業のニーズに応じ、事業創発人材の育成やDX人材の育成などの教育プログラムを提供している。

 設立以来、JAグループや関係者のニーズに応えて事業を拡大してきており、この過程で「ラボ」としての役割が固まってきたように思う。これらの取組みを通じて、食・第一次産業領域におけるオープンイノベーションの実践拠点として、一定の評価を得たのではないかと感じている。

 

第三者の立場で課題を捉え直す

農林中金の常務執行役員と兼任する立場として、あぐラボにどのように臨んでいるか。

 農林水産業の現場にしっかり金融面でサポートしていくには、農林水産業自体が力強くなる必要がある。

 あぐラボは、JAグループがグループ外の人とフラットに出会える良い窓口だと思う。だからこそ、私が所管する農林中央金庫の食農法人営業本部で、あぐラボの動きを把握することができるのは重要だと考えている。

 逆に言えば、理事長と兼任することになったことで、あぐラボの職員から直接話を聞くことができ、彼らが何をしているのかを知ることができる。課題に対して、当事者意識を持って問題に意識を向けることができるようになったと感じている。

 

JAグループ内外の人がつながりを持てる場を

今後の取組みについて。

 今後は、食・農業分野においてオープンイノベーションの実践を進めていく。そのためには、「出会い」の場をつくり、変化を後押しする立場として業務を進めていきたい。自分たちから声をかける場にするのではなく、JAグループ内外の人が自然に集まるような場にしていくことが、最終的に大きな役割を果たすことになると考える。補助事業の受託に取組むことは、農林水産業の現場が有効に資金を活用できることにもつながっていくと思う。

 スタートアップ支援では、農業現場やJAグループの課題解決を問題意識として、スタートアップの発掘を進めていく。実証活動においても、実装を目指した取組みを行っていく。特にスタートアップの発掘・育成では、農業に取組む人との接点が鍵になってくる。地域の農業者の会へ参加するなど、私たちの活動を伝える取組みも増やしていく予定だ。 

 これまで支援してきたスタートアップに対しても、有望な案件が現場実装につながるようハンズオン支援を強化していく。

 

その先にいる農業に携わる人への支援へ

農業現場とJAグループ・自治体との連携は。

 あぐラボは、全国連が設立したため、JAのその先にいる農業者や生産者とのつながりがそこまで持てなかったと思う。だからこそ、実際にその先にいる農業に携わる企業や人とも、フラットかつ密に交流できる場所にしていきたいと考える。例えば、連携協定を締結しているJAの青年部などと連携を深めていきたい。

 課題解決に際して、現場の困りごとは、現場から離れている人にとっては「何に困っているのか」分からない場合がある。例えば、最近は猛暑による課題が山積しているが、高温によって日中の作業時間が減少し困っている場合もあれば、機械が作動しない、農薬が効かないなど、課題は多岐にわたっている。課題によって、やるべき手立ては変え、それぞれのやり方で解決していかなければいけない。

 そのためには課題を深く掘り起し、正しいソリューションを当てはめていくことが大切になる。今後も、課題を引き出し解決することで、信頼を積み上げ、新しい取組みにつなげていきたい。

 人材育成については、引き続き新規事業創発やDX人材などの研修を通じて、JAグループのオープンイノベーションにつながる支援を進める。

 自治体との連携では、今までの蓄積をもとに、官公庁や地方自治体の予算・施策を活用してのスタートアップ実装支援に注力する。この連携を強化し、さらなるスタートアップ支援施策の立案につながるよう働きかけていく。スポンサーである一般企業との連携も深めていく。

 農林水産業には国土を守る「プライスレスの価値・意義」がある。あぐラボは今後も、食・第一次産業領域をつなぐハブとして、自らも変革すべきところは変えていきながら、農林水産業の振興に向けた取組みを進めていきたい。

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