2008年だから18年前になるが、食料自給率をテーマにした新聞の連載企画でナシの花粉について取材をしたことがある。中国からの輸入がストップし、ナシ農家が困っていると聞いたからだ。
そもそも花粉を輸入しているというのが初耳だった。ナシは自分の花粉では実を付けない「自家不和合性」があり、他の木(多くは別の品種)から採取した花粉を付ける必要がある。それは知っていたが、省力化のため輸入花粉を機械で吹き付ける方法がいつの間にか広がっていた。
千葉県市川市のナシ農家を訪ね実情がわかった。背景は生産者の高齢化だ。手作業で花粉を集め、授粉するのは大変な作業だ。取材した生産者も70代。夫婦で1.2haの梨園を経営していたが「もう、これ(輸入花粉と噴射機)がないと無理」と話した。
しばらくして輸入は再開されたが、止まった理由はよくわからなかった。同じ時期にモヤシの原料(種)にあたる緑豆も中国からの輸入が急減し、窮地に陥ったモヤシ生産者にも話を聞いた。同年1月に発生した「毒入りギョーザ事件」(中国で製造された冷凍ギョーザに農薬が混入し、日本の消費者に健康被害が発生)が影響したとの見方もある。
そんな事例を取り上げたのは、生産資材の多くを輸入に依存する現実を示したかったからだ。家畜の飼料はカロリーベース自給率に反映されるが、種苗や花粉の輸入は考慮されない。野菜の種や養鶏の「種」にあたる種鶏・原種鶏も9割が輸入とされる(正確なデータはないが)。
中国からの花粉輸入は今も止まっている。今回は理由が明確で、バラ科の果樹に深刻な被害をもたらす火傷病の発生が3年前に中国で確認され、日本側が輸入を停止した。農家同士で花粉を融通し合い、花粉採取の専用園地を設けるなどの対応が取られているが、生産縮小や離農に拍車がかかっているとの報道もある。
中東動乱による燃料や肥料の価格高騰もそうだが、グローバルな供給網に依存した農業生産のもろさが露呈している。単に自給率を上げればいいという話ではない。食料安全保障を強化するなら、資材の調達先を分散するなど総合的なリスク低減策を考える必要があるだろう。
(農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2026年5月25日号掲載


