日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉所得補償実現の年に

2025年1月5日

 先の衆議院選挙での与野党逆転にともなって国会での論議がにわかに活気づいてきた。予算成立のキャスティングボードを国民民主党が握る構図となって、所得税が課税されるか否かの境目となる年収103万円の壁を引き上げるべく働きかけを強めており、12月23日現在では未決着ながら、自民党と公明党は20日に税制改正大綱に103万円の控除額を2025年から125万円に引き上げることを明記した。これに続いて日本維新の会は、高校授業料の無償化を所得制限を設けずに行うための費用が来年度予算案に盛り込まれた場合には、これに賛成することもあり得るとの見解を明らかするなど攻勢をかける。

 こうした流れの中、農業分野でも論戦が本格化しつつある。12月18日には国民民主党の玉木代表(役職停止中)が衆議院農林水産委員会で、農家所得の向上とともに水田活用の直接支払交付金や中山間地域等直接支払制度等の既存制度の整理・統合を訴えると同時に、農家への直接支払制度の見直しに向けた与野党の協議の場の設置を提案した。これに対し江藤農相は所得向上の必要性や既存制度の見直しについては「ほぼ同じ意見」としながらも、新たな直接支払制度の創設は財政的に困難との認識を示している。また立憲民主党も新たな直接支払制度の検討を急ぐとともに、超党派でつくられる協同組合振興研究議員連盟では、?農地への基礎支払、?コスト上昇や価格下落に対応する所得補償、?増産したコメや乳製品の政府買い上げ、からなる制度の議員立法案の骨子を既に作成している。こうした動きに対して自民党の森山幹事長も制度の見直しが必要との考えを表明するなど、にわかに山が動き出しつつある。改正基本法には盛り込まれず、予算委員会での附帯決議に「農業所得の向上」を明記するにとどまっていた議論が、噴出した感じだ。

 地球温暖化が進行し戦火は拡大し世界人口が増加を続ける一方で、食料安全保障の重要性は高まるばかりだが、改正基本法での食料安全保障確保の施策は安定的な輸入と輸出促進を柱としており、世界でも最低水準にある食料自給率の向上についての意欲は希薄だ。寺島実郎(『21世紀未来圏 日本再生の構想』)の表現を借りれば、「(日本の経済成長を可能にしてきた)工業生産力モデルの探求で忘れていたものの象徴が『食と農』」であった。21世紀に入りアメリカの一極支配体制は崩れつつあり、ロシアや中国も停滞する中、世界の潮流は「世界は一極支配でも二極分断でもなく、全員参加型の多次元秩序に向かっている」ことは確かである。これに対応した日本の「主体的国家構想」が求められており、このためには国家・経済ともに自立度を強めていくことが必須だが、その一丁目一番地となるのが食料安全保障の確保であり食料自給率の向上である。

 その日本農業は農地減少と担い手不足の加速度を強める一方であり、その最大原因は農業の低収益性にあることは明らかでありながら、所得補償は「財政的に困難」で片づけることは許されない。新年はまさに日本農業が維持できるかどうかの分岐点となる。国会での奮戦を通じての所得補償の実現を祈らずにはいられない。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2025年1月5日号掲載

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