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〈蔦谷栄一の異見私見〉始まりつつある団塊世代のリタイア

2024年8月5日

 農地面積、そして担い手の減少は著しい。農地面積はこのところ毎年3万ha弱減少し、この60年程の間に約3割の農地が減少している。そしてこれ以上のショックが担い手の大幅な減少である。

 1998年に691万人であった農業従事者数は2021年には229万人と何と462万人が減少しており、減少率は66.9%に及ぶ。農業従事者のうち基幹的従事者だけとってみても、1998年の241万人は2022年には123万人と49.0%の減少、ほぼ半減している。この20年程の間に、いわゆる昭和一桁世代が大量にリタイアしたことが大きく作用したといっていい。この昭和一桁世代のリタイアにともなう担い手の確保が懸念されたが、団塊の世代の頑張りで1経営体当たりの経営面積拡大によって日本農業は何とか維持されてきた。

 そこであらためて2022年の基幹的農業従事者に占める70歳以上の割合を見てみると、56.7%と過半を占めており、さらに75歳以上、後期高齢者となった団塊の世代がそのかなりを占めていることが推定される。昭和一桁世代のリタイアによる激震は何とか切り抜けてきたわけであるが、今度は団塊の世代の大量リタイアを迎えつつある。

 筆者は1948年生まれで、まさに団塊の世代のちょうど真ん中であり、自分も含めて考えると団塊の世代のリタイアが本格化するのは早くて4、5年先と見てきた。こうしたことを西日本のK農家に話したところが、とんでもない、もう団塊世代の本格的なリタイアは始まっており、地域営農は崩壊しつつあるとの率直なご指摘をいただいた。K氏の集落では、この数年、担い手といえるのはK氏ともう一人の二人だけ。もう一人という農家は来年にも止めかねない状況だそうで、K氏も体のあちこちにひずみが来て、もういつまでやれるか分からない、止められるものなら早く止めたいのが率直な心情であり、またこの二人とも後継者はおらず、自分達が集落の最後の担い手になりそうだと語る。

 後継者を確保していくためには、それなりに頑張れば一定の所得が安定的に得られ、将来見通しが立つことが必要条件であり、所得補償が必須である。改正基本法では合理的価格の形成を実現することになってはいるものの、いつになったら実現可能なのか。そもそも価格自由化の下で、流通や消費者の負担によって生産コストがカバー可能な合理的価格の形成をはかることはきわめて難しい。合理的価格の形成を横に置いてでも、所得補償により農業所得の増加と安定確保をはかっていくことを優先すべきだ。

 基本法改正の論議を聞いていて強く感じさせられた一つは、スマート農業に象徴されるように担い手は減っても機械力を駆使することによって乗り越えることは可能であるとする楽観論であり、担い手問題に対する危機感は希薄であった。いたずらに悲観論を振りかざすつもりはないが、改正基本法で踏む込むべき所得補償論議を回避して手じまいした責任は誰が取ってくれるのかはっきりさせてほしい、と思うのは私一人ではあるまい。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2024年8月5日号掲載

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