成立した改正食料・農業・農村基本法についての受け止め方等は本紙6月15日付の「異見私見(拡大版)」に記したとおりだ。確かに食料安全保障や環境との調和等についての理念や施策、農福連携や多様な農業者等が盛り込まれるなど一部は新たな動きに対応した施策も盛り込まれた。しかしながら担い手の不足、農地の減少等が進行し、日本農業が崖っぷちに追い込まれている情勢の下、既存の効率化・大規模化の基本路線に変わりはなく、肝心の所得補償の議論は避けて合理的価格の形成を先行させ、またスマート技術やゲノム編集等の先端技術、農産物の付加価値向上への取組みが強調されたものとなっている。あらためて基本法改正論議を行うのは10年以上先になることを考えると日本農業の再生が遠のいたというか、再生の機会を失ってしまったのではないかと懸念せざるを得ない。
こうして鬱々としているところに畜産関係者から電話で〝叱責〟を受けた。一つは食料安全保障の強化とはいうものの、食料自給率の向上に向けた取組みの方向性が見えてこない。二つは改正基本法の内容を見てもそうだが、国会等での議論を聞いても農産物の話ばかりで、畜産は出てこない。畜産を軽視しているのではないか、とのご指摘である。
まったくもっともな話で、一については野党からも問題指摘がなされたところである。第二点についても同感で、畜産についての議論は穀物飼料に特化して議論され、畜産のあり方等についての議論は乏しかった。令和4年の農業産出額9.0兆円に対し、畜産は3.5兆円とその38.9%を占め、米1.4兆円、野菜2.2兆円等からして、畜産軽視の批判は免れようもない。
農政審議会の中には畜産部会が設けられており、ここでの議論が基本法改正に反映されていることになってはいる。一方、畜産政策は令和2年に定められた「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」が指針とされている。またみどりの食料システム戦略については、別途、畜産版のみどり戦略の中間報告はまとめられているが、その後、正式な報告がまとめられたという話は聞かない。このように畜産については農産物と分離して議論されてきた経過があり、そうした位置づけもあって基本法改正に際して畜産についての議論が結果的に希薄なものとなったのではないかと思料する。
これは畜産には独特な問題もあって別扱いにされて来た歴史があるように推測もされるが、先に見たように日本農業の約4割のウェイトを占めていることも踏まえて、担い手の確保や農地・草地の活用、耕畜連携等、農業と畜産を一体化した議論を展開していくべき時代にあるといえよう。またSDGsが叫ばれる中、畜産が抱える屠畜や副産物の処理等について、環境変化等から原皮業者等の経営は”瀕死の重傷”状態にあり、また困難化している施設の更新や用地の確保等が大課題となっている。
自然循環を拡充させていく視点からも、広く議論して国民に実情を知らせ、理解を獲得していくことが不可欠であるにもかかわらず、基本法の論議では触れられずに終わったことは残念至極としか言いようがない。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2024年7月5日号掲載