日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈行友弥の食農再論〉補助金漬けの「苦い米」

2024年6月25日

 半導体は「産業の米」と呼ばれる。スマホやパソコンなど情報機器だけでなく、テレビなどの生活家電、自動車にも欠かせない。その重要度は確かに米に匹敵する。いや、米離れが進む今はそれ以上かも知れない。

 1980年代、日本の半導体は世界市場の5割超を占めた。しかし、米国との貿易摩擦が高まり、86年に日米半導体協定が結ばれた。日本市場で外国製半導体のシェアを2割以上に高めることと、ダンピング防止のための最低価格導入が柱で、そこから日本の半導体は競争力を失っていった。今や日本は台湾や韓国に大きく水をあけられ、世界シェアは1割に満たない。

 巻き返しを図ったのが通商産業省(現・経済産業省)だ。99年には主要企業の半導体部門を統合してエルピーダメモリ社を設立。多額の公的資金を投入して「日の丸半導体」復権を目指したが、2012年には経営破綻。無惨な失敗に終わった。

 それでも経産省はあきらめない。「経済安全保障」を掲げ、22年には新たな国策会社ラピダス社を立ち上げた。世界最先端の2ナノメートル半導体の量産化で巻き返しを図ろうと、北海道千歳市に工場を建設中だ。同社には9200億円の税金が投入されている。

 台湾企業ではあるが、世界最大手TSMCの工場誘致もその一環だ。今年2月に熊本県菊陽町に第1工場が完成し、第2工場建設も決まった。政府は最大1兆2000億円余りを補助する。ラピダスを含め、過去3年間の半導体関連予算は4兆円近くに上る。

 千歳市や菊陽町は「半導体バブル」に活気づく半面、さまざまな弊害が生じている。地価や労賃の高騰、交通渋滞、環境汚染などだ。特に心配なのは、半導体工場が大量の水を使うことからくる水不足。熊本では、地下水の枯渇に酪農家から不安の声が上がっているという。

 ここまで国がテコ入れしても、日本の半導体が世界で主導権を取り戻す見込みは薄いとみる専門家も多い。これまで経済界は農業を「補助金頼みの劣った産業」と見下す傾向が強かったが、今の半導体産業も補助金漬けで農業を笑えない。せめて、農業の足を引っ張る「苦い米」にならないでほしい。

(農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2024年6月25日号掲載

keyboard_arrow_left トップへ戻る