今、世界では有機農業が拡大している。ヨーロッパは有機農業の先進地であり、耕地面積に占める有機農業比率はスウェーデン18.8%、イタリア15.4%(2017年。以下同じ)をはじめとして高く、ヨーロッパの中では有機農業比率が低く特異な存在でもあったフランスも、AMAP(フランス版CSA(Community Supported Agriculture=地域で支える農業))の普及・拡大にともなって有機農業比率は急伸しており、6.3%になっている。ヨーロッパでも平地を中心に農薬・化学肥料を使用しての大農機具や高度施設利用型の大規模経営によるさらなる農業の近代化が進行しているのも事実である。これに対して中山間地域をはじめとして小規模経営ながらも技術集約的に手間をかけ景観や環境保全に留意した農業を展開することによって平地農業と差別化し、しかも地域ぐるみでの取組みも含めて推進することによって有機農業の伸長に結びつけてきたと見る。
これに対して日本の現状は0.5%にとどまっており、2006年には有機農業推進法が施行されてはいるもののほとんど数字は変わらないままである。同じ東アジアの韓国が1.2%、台湾0.8%、中国も0.6%であり、これらにも劣後している現状にある。
日本農業は低食料自給率、小規模経営、低収益、担い手の高齢化等の構造問題を抱えているが、有機農業への取組不足もその一つに加えてもおかしくないように思う。何故、日本では有機農業が普及・浸透しないのか。これまで流通体制が不十分で購入意欲はあっても販売している店舗が少ないというのが大きな理由としてあげられてもいたが、現状では有機食品等を扱う店も増え、もはやこれが大きな理由とは言い得ない。基本的には安全・安心については農薬基準等が守られているはずだから、みんなが食べているから問題ない、との日本人の国民性とも言うべき感性が大きく影響しているのではないか。また国産を支持する消費者のマインドも、有機農業よりも地産地消、鮮度なり産地を優先するものが多いように感じる。一方、生産者は周りの生産者と違ったことはやらないほうがいい、という新しいことに一歩踏み出すことを共同体意識が妨げているように思われてならない。そして何よりも有機農業推進法は成立しているものの、農政全体の中での位置付けがあまりにも弱い。これでは生産者の取組意欲を喚起することにはならないのも当然だ。
家族農業の10年や小農権利宣言、さらにはSDGsの流れが象徴するように、持続性確保を前提にしての土地生産性の向上と家族農業の再評価が世界的に大きな課題となりつつある。こうした流れの中、日本はスマート農業、グローバル産地形成による輸出力強化等に力こぶが入り、ギャップは広がるばかりだ。あらためてこうした流れを踏まえて、日本農業の柱として持続型農業への取組を据えることが必要ではないか。そのメインが環境保全型農業であり、その取組みの一つとして有機農業の推進がある。その結果として有機農業の比率を高めていく。こうした整理が求められる情勢がもう足元まで押し寄せてきている。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2019年6月5日号掲載