日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉付帯決議で回避した基本法の抜本改正

2024年5月16日

 食料・農業・農村基本法改正案は4月19日の衆議院本会議で可決されて、現在、参議院で審議が行われているが、衆議院での可決によって改正案の成立は確定したことになる。参議院で実質的な議論の進展を期待したいところだが、勝負あったの感は否めない。

 今回の衆議院での改正案可決に当たってあらためて痛感したのが、与党のかたくなさ、聞く耳の欠落である。改正案に対して各党とも修正案を提出したが、自民・公明は維新からの多収品種の育成・導入促進の明記を求める修正案を受け入れる一方で、野党である立憲民主党(以下「立民」)や国民民主党(以下「国民」)、共産党(以下「共産」)の修正案については全面的に拒否。野党の修正案を見ると、食料自給率向上と農業所得の確保に関しては立民・国民・共産ともに、農村振興の意義と水田の「畑地化」の削除については立民・国民が、有機農業の促進については立民・共産、また種子の公共育種や都市農業振興については立民が提案しており、これらは危機に瀕する日本農業の再生の前提となる経営確保のための条件整備であるとともに、適地適作や有機農業・都市農業振興等の中長期的に推進していくことが避けられない課題を排除する結果となった。危機に直面する日本農業の再生を期すために、与野党の対立を超えて、是々非々の論議が展開されることが期待されたが、与党は大規模化・効率化という現行路線に固執して対立構図を崩すことはなかった。

 これに関連して注目しておきたいのが4月18日の衆議院農林水産委員会で採択された付帯決議である。ここでは所得補償について触れられてはいないものの、農業従事者の人権への適切な配慮、食育の重要性、アニマルウェルフェア、有機農業の推進、種子の安定供給、都市農業の推進等が含まれている。言ってみれば修正提案されながらも与党に拒否された野党提案の多くが含まれている。これは付帯決議の位置付けをどう理解するかということにもなるが、与党はこれらを今回の改正の対象にすることを拒否したものの、将来的な取組課題としては認めざるを得なかったというのが実情なのではなかろうか。

 このように見てみると、今回の改正案は直面する課題としての食料安全保障、特に不測の事態への対応をメインにしたものであって、担い手の確保や農地維持しての平時からの食料自給率向上と、そのために必要とされる条件整備やあらたな環境変化を織り込むことを先送りしたと理解される。今回、直面する課題への対応だけで基本法改正を行おうとするものだが、問題は、これだけでは日本農業の再生は困難であり、日本農業のあるべき姿が見えてこないとともに、メインである食料安全保障自体が不十分なものとならざるを得ない。

 繰り返し強調すれば、今、日本農業は団塊世代の大量リタイアを控えて、再生のラストチャンスと考えられ、まさに与党・野党の立場を超え、挙国一致して日本農業の将来像を議論しながら基本法を見直すべき時でありながら、将来に向けて不可欠とされる肝心のいくつもの課題は付帯決議にとどめられた。後悔先に立たずとなることが懸念されてならない。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2024年5月16日号掲載

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