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〈行友弥の食農再論〉「機能性」の落とし穴

2024年5月1日

 20年前、スギヒラタケというキノコの中毒事例が相次ぎ、十数人の死者が出て大きなニュースになった。東北・北陸地方では昔から食べられていた山の幸だが、なぜ毒キノコに変身したのか、今もわかっていない。

 紅麹(こうじ)サプリメントの健康被害で、その騒ぎを思い出した。紅麹も古くから利用されてきた食材で、キノコと麹はともに真菌、つまりカビの仲間だからだ(キノコは菌糸の集合体)。真菌類など微生物の種類や生態には未解明の部分が多く「99%は謎」という専門家もいる。

 微生物に限らず、生き物には有用なものと有害なものがある。そもそも「有用、有害」は人間の都合で、身近な食品も処理を誤れば毒になる。たとえば、山菜のワラビは強力な発がん物質を含む。十分あく抜きして食べれば大丈夫だが、それでも毎日大量に食べたらがんになる。人類は長い年月と多くの犠牲を費やし、そういうことを学んできた。

 本稿執筆時点で紅麹問題の原因は究明されていないが、背景の一つは「フードファディズム」だろう。食品の健康への影響を過剰に気にする風潮のことで、高橋久仁子・群馬大学名誉教授が日本に紹介した。「〇〇を食べるとやせる」「〇〇を食べればがんになる」といった情報が広がり、特定の食品が飛ぶように売れたり、ぱったり売れなくなったりする現象が典型的だ。

 フードファディズムは「商機」を生むが、それを後押ししたのが2015年に創設された機能性表示食品制度だ。特定保健用食品(トクホ)は国による機能性・安全性の審査と許可が必要だが、機能性表示は届け出だけで認められる。「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げる故・安倍晋三首相(当時)が成長戦略の一環として導入し、紅麹サプリもこの制度に乗って販売された。

 政策を見直すべきだが、消費者も学ぶ必要がある。もともと紅麹は補助的な食材であり、毎日摂取するようなものではない。「健康にいい」と同じものを大量に食べ続ければ、ワラビのように毒になる可能性もあろう。飛び交う情報に惑わされず、いろいろなものをバランスよく食べるのが、結局は一番なのではないだろうか。

(農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2024年4月25日・5月5日合併号掲載

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