臭化メチル剤からの完全脱却へ

マニュアル策定の背景は?
 開発プロジェクトは、5年間の検討を経てピーマン・メロン・キュウリ・ショウガの4品目8産地の栽培マニュアルと個別技術のワクチン利用マニュアルの9冊を作った。
 臭化メチルは昭和50年代から、土壌病害、線虫害、雑草等に多岐にわたって防除効果を示す“万能燻蒸剤”として安定生産に寄与してきた。しかし、臭素のオゾン層破壊力は塩素の60倍とも言われ、1995年の国連環境計画で環境破壊物質に指定され、まず先進国で削減を図っていった。
 日本も2005年の全廃目標に向け取り組んできたが、それ以降でも、臭化メチルがないと経済栽培が全く出来なくなるようなピーマン、メロン、キュウリ、スイカ、ショウガの5品目は「不可欠用途」として特例的に使用を認めてきた。しかし、2015年から開発途上国での削減プロクラムが開始されるのを前に、これらについても使用を廃止せざるを得なくなった。
 こうした状況に国内産地が対応出来なければ混乱が必至なことから、2005年以降、徐々にパーツ後との技術が開発されてきたが、全体的な栽培作型としての組み上げはなされていなかった。

プロジェクトではどのような検討がなされたか?
 まず臭化メチルに頼らずに済む効果のある薬剤や技術はどのようなものがあるかから検討を始めた。そこでは、土壌伝染性ウイルスとショウガの2つの対応に分かれた。土壌伝染性ウイルスとショウガの根茎腐敗病菌(ピシウム菌)では病原体が違う。
 土壌伝染性ウイルスは環境保全型対応のIPM(総合的病害虫管理)ベースでのウイルスのコントロールが考えられる。例えば、圃場の衛生管理や腐熟促進、土壌伝染を物質的に遮断する生分解性ポットの利用、モザイク病予防のワクチン等々でIPM構築が可能と考えられた。一方、ショウガはピシウム菌自体が宿主域を広域にもち、輪作のほうれん草にも及ぶ強い感染力を持っていることから、それをコントロールするために薬剤探索の方向に向かわざるを得なかった。その中で効果を見極め、それぞれの産地の作型の中で使えるものを選んでいった。

プロジェクトの目標と成果は?
 臭化メチルは極めて効果の高い薬剤だったので、個別技術を組み合わせてもこれに匹敵するような効果を得ることは難しい。そこで、臭化メチルを100とした場合に防除価80を達成できれば経済栽培としての生産性が一応成り立つと判断。収量は臭化メチル使用の慣行栽培に比べ90%以上の目標を立て、それに向けた栽培マニュアル作りを5年間続けてきた。
 ショウガでは、定植前の燻蒸、生育期の薬剤防除、収穫後の植物残さの処理などこまめな対策を実施、前の作型での圃場の発病率を低密度にコントロールすることも重要だとわかった。この考え方のもとで栽培を続け、防除価70〜80、収量も90%以上確保できた。これにもとづいて栽培マニュアルを構築した。さらに温湯消毒など種ショウガの健全性確保も重要になってくるが、これはまだ試験段階の域を出ていないので、引き続き取り組んでいきたい。
 一方、ウイルス病では、圃場の衛生管理と地力の向上によって、土壌中に残存するウイルス量がかなり減ることが分かってきた。圃場衛生は、前作の残痕を極力残さないことが基本。器具・機材の洗浄や消毒も含めた丁寧な圃場衛生管理に加え、有機物を入れ土壌を肥沃にし、物理的な土壌伝染遮断材料を使用した定植や、生物防除技術の一つとしてのワクチン投入などを組み入れたマニュアルを構築した。定植試験では、防除価80〜95、収量も90%以上をはるかに超え慣行栽培の100%に近づいている。

残された課題は?
 ショウガの場合の今後の大きなテーマは、現在の生産性や品質を維持しながら、いかに減農薬栽培へ向かうかだ。例えば、前作での汚染程度を診断し、それに基づき次作で処方するような仕組み作りをすることによって減農薬につなげていけるのではないか。今回のプロジェクトでは、前作の汚染程度を診断する技術は作れなかったが、こうした作と作の連携を図っていくことも今後課題となろう。この考え方はウイルス病でも同様である。例えば、鹿児島県では血清診断法で前作の土壌の汚染程度を見極め、程度を3段階に分け対策方法を提案している。
 それぞれの産地に応じた選択や組合せも大きな課題である。例えば、住宅地の中にある和歌山のショウガの産地では、刺激臭のないヨウ化メチルを選択し、処理期が2月であることから気化に必要な温度を確保するためにビニル被覆を二重にする等の工夫をした。また、本産地はショウガとほうれん草の輪作体系であることから、ほうれん草への移行期である夏場には太陽熱消毒も活用している。これにより、極めて高い防除効果を実現している。同じ高知のショウガと稲の輪作では、前作での発病程度をみて薬剤を選択しながらのマニュアルとなっている。主力はダゾメット粉粒剤だが、汚染程度の高い圃場ではクロールロピクリンやD-Dとの混合剤等も利用する。

マニュアルの普及に向けては?
 昨年実施した研究成果発表会では、会場でアンケートをとらせてもらったが、マニュアルを生産現場まで広げていく技術指導の要望がいくつか寄せられた。マニュアルが出来たからこれでおしまいではなく、まずこの情報を多くの方々に知っていただき、臭化メチルを使っていた方々が困らないよう、我々も産地に出向き地元の普及員や営農指導員などと連携して技術指導をしていかなければならない。冊子やDVD等の資材をプロジェクトメンバー全員が共有している。地元や近隣産地にどんどん情報を伝えて欲しい。その過程で出てきた産地の課題も吸い上げて、新しい研究課題も立ち上げていくようなキャッチボールもしていかなければと考える。
 冊子体あるいはDVD動画の栽培マニュアルは、中央農業総合研究センターのホームページにある
http://www.naro.affrc.go.jp/narc/contents/post_methylbromide/index.html)。質問や要望はE-mail:Post-methylbromide@naro.affrc.go.jp FAX:029-838-8101 に、ぜひお問い合わせ頂きたい。


2013年 1月25日号 第2996号
このひと
農研機構・中央農研センター上席研究員
津田新哉 氏

 農研機構・中央農研センターはじめ各県の試験研究機関等で構成する「脱臭化メチル栽培マニュアル開発プロジェクト」が、昨年末で使用が全廃になった臭化メチル剤から完全に脱却した土壌伝染性病害虫防除の栽培マニュアルを開発した。同マニュアルの活用に向けて、プロジェクトリーダーを務めた中央農研センターの津田上席研究員に聞いた。