就任の抱負を
 JA事業は、今一番難しい時にある。私も職員からはじめて五十数年の農協マン人生を歩んできたが、今ほど農家が困っている、「どうしたらいいのか…」と不安を感じている時はないと思う。燃料や肥料、飼料はじめ、営農に不可欠な生産資材が軒並み高騰する中で、「このままでは営農を継続していけない」との悲鳴の声が上がっている。中国産の冷凍ギョーザ事件等の影響もあり、多少高くても国産をという消費者の食の安全・安心へのニーズは高まっているとはいえ、資材高騰分をストレートに価格に転嫁することは難しい。そうすればまた消費が縮んでしまう懸念もある。
 農業協同組合運動は、力の弱い個々の農家が結集し、協同で生産資材を安く購入し、かつ有利に販売していくことを目的に事業を展開してきた。従って農業協同組合運動の一番の基本は経済事業にあると思っている。全農は、この事実・基本を踏まえながら、組合員との接点にある単位JAの経済事業をしっかりサポートしていかなければならない。
 この大事な時に、全農会長という大役を担わせていただくことになり、農家組合員のこの危機を共に乗り越えていかなければならないとの思いを改めて強くしている。

当面の課題対応への基本姿勢を、まず生産資材の価格高騰について
 世界的な食料危機の中で、穀物輸出を制限する国も出始め、自国における食料増産は改めて大きな課題となっている。その中で、全農に課せられた課題は、まず、生産資材の原材料を安定的に確保する努力であり、流通の合理化等による価格抑制への努力である。ただ、この問題は、系統組織だけの努力で解決できる範囲を超えており、JAグループあげて国の政策協力を求めていく必要があると考えている。
 全農としては、例えば、肥料では、低成分銘柄の普及や鶏糞燃焼灰活用、堆肥投入の推進、土壌診断の強化など施肥コスト抑制対策、施設園芸での省エネルギー対策など、できるだけ生産資材の原材料コストを圧縮できるような対策をJAと連携して提案している。
 一方で、消費者のみなさんに、今の農家の現状を周知・理解していただき、国産農畜産物を支援していただく活動を展開していくことも、単位JAだけではできない全農の大きな役目だと思っている。

米の生産・販売の取り組みについては?
 生産県・消費県の違いはあっても、米はJAと組合員の結びつきの拠り所であり、事業の根幹をなしていることには変わりない。この需給均衡に生産調整は不可欠であり、米を中心とした施策がしっかり確立されていなければ、組合員から背を向けられるだろう。全中と一緒に、需要に即した主食用米の計画生産の徹底に努めると共に、麦・大豆や飼料用米、米粉用米など自給率を向上させる作物増産の仕組みを確立していかなければならない。
 併せて、販売面を起点とした生産・集荷・販売方式への取り組みを強化していかなければならない。これまでの卸を主力にした販売方式だけでは、組合員のためになっていないとの指摘もある。収穫前契約を推進し、実需者と結びついた契約の拡大に取り組むと共に、東西のパールライス会社を軸にして、より消費者に近い米=精米を直接販売していく方向に重点をおいていき、大口実需者への積極的な販売促進などに取り組んでいきたい。

担い手対応強化をはじめとした組合員への対応は?
 これからの日本の農業を守っていくためには、担い手の育成は重要な課題である。全農では、19年度からの5年間で240億円の財源を担い手対策に投入することにしているが、この取り組みが、まだまだ担い手に見え・実感されるところまでには至っていないとの声もあり、JAと一体となった対応体制づくりが急務の課題となっている。担い手との接点はあくまでも単位JAである。これを支援するため、全農では担い手に出向くJA体制強化・定着化に向けて、担い手担当者の統一愛称を「TAC」とし、全農、JA担当者がチームを組んで担い手に対応していく体制を整えた。しかし、地域によって取り組みの進捗状況に差異があることも事実で、モデル地区を設定した運動を強化していくことにしている。
 一方で、例えば、私の地元・奈良県の場合、95%が兼業農家であり、耕種の大規模経営は少ない。こうした地域の農業維持、食料生産のみならず農業の多面的役割発揮へは、多くの兼業農家組合員や准組合員への対応も大事だ。地域と共に歩む農業協同組合のとしての運動・事業展開が重要だ。全農事業も、単に一律的な展開ではなく、地域の声・組合員の声を大事にし地域の実態に応じた展開方向が必要だと考える。

全農改革のこれからは?
 農水省からの一連の業務改善命令は、子会社の不祥事に端を発しているものが多いが、これらの業務の具体的な改善と共に、組合員のための組織としての全農の本質を問う次元のものであると理解している。農家組合員のためになる役割をいかに発揮していくのか、その方向づけが求められている。
 その一つは、前述の米の販売をはじめとして、真に農家組合員のために汗をかく事業、農家組合員の手取り最大化に向けた各事業の方向付け。そしてもう一つは統合全農としての事業体制の構築ではないかと考える。各経済連との統合当初は、各県ごとに収支を償っていく事業方式であったが、それでは、ガバナンスも効かずコンプライアンス態勢も強化できないことから、事業部制を打ち出したが、各県の事情も絡みなかなか先が見えてこない。こうした課題について、再度方向付けし歩みを見せていく段階にきていると思う。
 こうした事業面の課題解決と併せて、事業を発展させていくには強固な組織が必要だ。全農都府県本部、経済連、1県1JAの3パターンが現存する経済事業組織のこれからのあり方も大きな課題である。各都府県本部間にはそれぞれの地域特性もある。どのような形が最も合理的かつ効率的なのかを検討していきたい。全農の経営管理委員の4分の1にあたる5名は学識経験の委員であり、会長は1県1JA、副会長はそれぞれ経済連、全農県本部を出身母体としていることから、さまざまな視点での意見を出し合いながら合理的な事業運営を構築したい。

安定した事業体に向けての経営面での取り組みは?
 19年度、事業損益は、計画で予定していたマイナス幅を圧縮し、経常利益も赤字予定の計画を上回り黒字を計上。ゼロ計画の剰余金を大幅に改善し、出資配当は計画1%に対し2%を実施することができた。やはり5兆円からの取り扱いをしながら、“ゼロ決算”の財務内容では理解を得られないだろう。事業を継続していくためにも、組合員に継続したサービスを提供していくためにも、ある程度の余力がもてる経営基盤の確立に全力をあげるべきだと考える。
 宮下理事長以下、理事者や職員は能力の高い優秀なメンバーが揃っている。全農改革の目指すところ、本質をしっかり踏まえ、早期に業務改善命令が解除されるように取り組む。これを契機に全農が生まれ変わるチャンスだと思っている。

最後に、全農会長としての決意を
 私の五十数年の農協マン人生は、周囲からの支えがあったから歩んでこられた。私にはこれまで “強み”というより、むしろ弱いからこそ、みなさんが助けてくれたのだと思っている。
 今は、大上段に構えて旗を振れるような農業情勢下にはない。現状をいかに打開していくかを、農家組合員のみなさんと一緒に悩み、その悩みを共有しながら次のステップに踏みだしていく。
 強いリーダーシップを発揮すること以上に、今の環境では、課題をみんなで共有することから出発することが重要だと感じており、そのなかで課題解決に向け精一杯努力していきたい。


2008年8月25日号 第2829号
このひと
JA全農 経営管理委員会会長
永田 正利 氏
 JA全農は、7月24日に通常総代会を開催、経営管理委員会会長に永田正利氏(JAならけん経営管理委員会会長)、同副会長に羽田正治氏(JA宮崎経済連会長)・木村春雄氏(全農宮城県本部運営委員会会長)を新たに選任した。永田新会長に就任の抱負と、これからの全農事業の課題や展望等を聞いた。