遺伝子組換え技術をめぐる現状は?
 国際アグリバイオ事業団のデータによると、GMOは全世界で1億1400万ヘクタール栽培されており、2006年に比べ10%以上増えている。大豆、トウモロコシ、綿、ナタネが中心で、農薬の使用回数減によるコスト削減、労力軽減を始め、大規模圃場での農薬散布に要する航空機や大型農業機械の燃料費軽減にも繋がることが大きな背景となっている。アメリカでは、表土層の流出を防ぐため不耕起栽培を進めているが、GMO大豆等は不耕起栽培および生育期間中の除草剤使用で効果をあげている。
 欧州では一時、モラトリアム措置をとっていたが、農家にとってメリットが大きいことや、研究者のモチベーションの低下、ひいては米国への流出を危惧し、これを解除し研究にも力を入れるようになった。現在、世界23カ国でGMOが栽培されている。GMO輸入国の日本が未だ栽培していない現状を興味をもって見る国も多い。
 研究開発は、最終的に実用化され現場で使われなければモチベーションも上がらない。技術レベルが低下すれば当然国際競争に後れをとる。知的財産面でも、他の国にお願いしなければ技術を使わせてもらえないような状況になれば、わが国の大きな危機となる。

国民のGMOの安全性に対する不安があるが…
 何となく怖い、見えないという不安感があったと思う。国としての考えが明確に見えない点もマイナスポイントとしてあったのではないか。そこで、国としての考え方を示しながら、この技術をどう活かしていくのか国民の間で議論し、その意見を政策に活かしていきたいと考え、各界の有識者を委員とした「検討会」を立ち上げた。

「検討会」での議論のポイントは?
 遺伝子組換え技術活用を具体的に進めていくために、限られた人、施設、予算をどのように利用していくかが1つ。また、民間企業や都道府県、独法等が連携した試験研究ではなく、個々で研究が進められている現状では、せっかくのシーズや対極にあるニーズも上手く繋げられない。国が主導して互いのシーズを出し合い共同研究出来る仕組みをつくっていくことが、第2のポイント。第3は、5〜10年後の実用化も含めて、賛成、反対それぞれの立場から意見を言っていただき、その中で国として取り組むべき課題を吸い上げていくためにもコミュニケーションを国民との間で進めていくことにあった。

「検討会」のとりまとめを受けての進め方は?
 検討会でもコミュニケーションにおいても、「具体的に何をいつまでに開発し、どう実用化していくのかが、見えないと議論が出来ない」という意見があった。そこで重点7分野を決め、具体的にどのようなものを作っていくか工程表も含めてオープンにした。その中で4つの重点課題の事例をあげている。中心となるのはゲノム解析等で多くのシーズがあるイネ。まず日本がリードしているイネから実用品種の開発を進め、その技術を向上させながら他作物も追いかけていく。
 重点課題の第1事例は、複合病害抵抗・多収性の農作物。これを増収、コスト低減、労力軽減に繋げる。第1段階として5年後を目途に現存の超多収の飼料米に病害虫の抵抗性遺伝子を組み込むことを目指す。花粉飛散による交雑の不安を解消するため閉花性も入れる。10年後には収量もさらに増やしコストを下げバイオマスの原料となるような品種を開発する。
 第2は不良環境耐性農作物。既に乾燥や塩害に強い遺伝子を見つけているので、5年を目途に不良な環境でも育ちそれぞれの国で使えるような品種を国際機関と協力して開発し、飢餓人口の減少に貢献していきたい。
 第3は、機能性成分を高めた農作物。これは5年後の開発を目指している。コミュニケーション活動の中である食品メーカーから、高齢化社会の中で中性脂肪や高血圧のコントロールが出来るような機能性をもった米を作って欲しいとの意見があった。健康のために一定程度の遺伝子組換え農作物を受け入れる雰囲気も出てきているのではないか。
 第4は、環境修復植物。圃場に残っているカドミウムなどを吸収し土地をきれいにする植物を、前述の閉花性による安全性確保も含めて、今後10年を目途に基礎レベルから開発を目指していく。

農水省としてGMOとどう向き合っていくか?
 5〜10年を視野に研究開発を計画的に進めていく。現場での実用品種を視野に入れ、研究者の育成や各種研究機関の協力、研究施設の充実、予算確保等を計画的に進める必要がある。どういう研究がどこまで進みどういうものが出来そうなのか、国民に絶えず情報を提供して不安感を払拭し、国民の間でリスク管理の議論を進めていけば、日本での栽培も可能になるのではないか。
 今1万人のアンケートをとりまとめ中だが、約4割がGMOを商業栽培も「可」と答えている。最近の世界の食料需給からして自国での食料確保にGMOもあり得るのではないかという意見もある。残りの4割が「分からない」、1〜1・5割は自然の摂理に反するから「行うべきでない」と答えている。
 農水省としては、国家論、国益論をもとに国民への食料の供給を考えていく必要がある。その選択肢の一つとしてGMOを上手く活かしていく道筋をつけなければならないと思っている。


2008年3月15日号 第2813号
このひと
農林水産省 農林水産技術会議事務局
            技術安全課長 横田敏恭 氏
 農林水産省の「遺伝子組換え農作物等の研究開発の進め方に関する検討会」は、昨年5月から検討を行い「最終とりまとめ(案)」をまとめ、今年1月、農林水産技術会議において決定された。これを受けて農林水産行政として、遺伝子組換え作物(GMO)とどのように向き合い研究開発を進めていくのか、農林水産技術会議事務局の横田技術安全課長に聞いた。